【HALLOWEEN】


「よーっし!!お菓子の準備オッケー!!ジャックオーランタンもオッケー!!
 黒猫のメイクもバッチリ!!!はい、兄さん。コレ兄さんの分、持って持って!
 そんじゃーレッツゴー♪」

クロフォードにお菓子の入った小さな籠を押し付け、その腕を取って玄関を飛び出すユーリ。

「ユーリ、テンション高すぎだよ、みっともないなぁ。ねぇクロフォード様―……」

後からツンと澄ましてトコトコと着いてきたフェイトが
クロフォードの顔色を伺うように見上げ――立ち止まった。

二人との距離が5mほど離れてからようやく我に返ったフェイトは、
ドキドキと高まる動悸と熱くなる頬を押え付けながら慌てて二人の後を追い
クロフォードの横に並ぶともう一度、そっとその怜悧な横顔を見上げ、直ぐに眼を伏せた。

見間違いではなかったらしい。

いつもと違う。
ほんの微かだけれど。

もしかしたら
気のせいかもしれないけれど。

それでもやっぱり。
そうとしか見えない。

切ないほど微かな
微笑――――






ユラユラ揺らめく数限りないロウソクの炎の間を、小さなオバケ達が駆けて行く。

「Trick or treat!!」

町外れ、日の暮れた墓所。
普段なら寄り付く者とて無い死者の住まいに、
今日は大勢の『生けるオバケ』達が右往左往し、墓所全体が明々と輝いている。

ケルト人の収穫感謝祭がカトリックに取り入れられたものとされているハロウィーン。
ケルト人の1年の終りは10月31日で、この夜は死者の霊が家族を訪ねたり、
精霊や魔女が出てくると信じられていた。
この地では家族の墓地にお参りし、そこで蝋燭をつけると言う風習がある。

「それじゃ、兄さん。私は先に御先祖様達のお墓行って来るね!
 ソレ、子供達にお菓子ちゃんとあげてね!」

墓所に着くと、ユーリは心ここに在らずのフェイトを引っ張り、
故あって名前を削られた上に古過ぎる所為もあって、大きさだけは大きいが、
もう誰も、誰が眠るか知らぬ墓に蝋燭を供えに向かった。 



クロフォードは暫らくその場に佇み、揺れる蝋燭の火々を、
フワフワと駆け回りお菓子をねだる見事な衣装の小さなオバケ達を眺めていた。

ふ と見ると、小さな墓の影に薄汚れたシーツに穴を開けただけの
みすぼらしい小さなオバケがしゃがんでいた。

「驚いたな、本当のオバケかと思ったよ」

クロフォードが声を掛けると、シーツオバケはギクンと硬直し今にも逃げ出しそうに身構えた。

「おっと、人を驚かすのが仕事のオバケが驚いてたら、お菓子を貰い損ねてしまうよ?
 さあ、お菓子を貰える魔法の呪文を唱えてごらん」

「Trick…or、――……」

消え入りそうな声はシーツの中でくぐもって最後は本当に消え入ってしまった。
クロフォードはユーリに押し付けられた籠の中から手の平に収まるほどの
小さなジャックオーランタンを取り出すと、シーツオバケの垢で汚れた幼い手に乗せた。

「ジャックオーランタン、知っているかい?ジャックはとっても口が巧くて悪いヤツなんだ。
 ジャックだったら、お菓子を貰う為に何をするかな?」

「……イタズラ」

「イタズラするだけかい?それじゃみんなお菓子を持って逃げてしまうね」

「ちがう…。おどかすの…お菓子をくれないと、イタズラするって―――…」

その瞬間、シーツオバケの手の平でジャックオーランタンがケタケタと笑いながら叫びだした。

「Trick or treat!!Trick or treat!!」

慌ててランタンの口を押えるシーツオバケにクロフォードは籠の中から一番綺麗なセロファンで
包まれたチョコレートを差し出した。

「イタズラされてはかなわないからね」 

陽気に笑うランタンとチョコを手に呆然とするシーツオバケの元に、
先程まではシーツオバケを遠巻きにしていた他の小さなオバケ達が
好奇心を押え切れず集まってくると、クロフォードを取り囲み、

「おにいちゃん、僕にもちょうだい!」
「私にも!」
「Trick or treat!」

オバケになり切った子供達には怖いものなど無いらしい。
あっという間に籠の中のお菓子を奪われてしまったクロフォードは
クスクスと笑いながら籠を逆さまにし、

「ああ、ごめんごめん。もうお菓子は品切れになってしまったよ」

「ええ〜」
不満そうな声が上がり、

「なんだー」
子供達の輪がほぐれ、

「お菓子が無いなら――」
一人二人と離れて行き、

「イタズラするぞ!」
蜘蛛の子を散らすようにバタバタと走り去る足音の響く中



「Trick or treat」





耳元で 囁かれた声に 眼が眩む 呼吸が止まる。

嗚呼 振り向いてはいけない。

魔法が 解けてしまう。















「兄さ―――ん、あっ居た居た。そろそろ帰ろう―…どうしたの?」
「ああ…。お菓子を全部取られて…悪戯されたよ」
「…ふーん、そっかー」
「その割には、クロフォード様なんか嬉しそー…」

何か言いかけたフェイトの口に、ユーリは自分の籠から棒付き特大キャンディーを
取り出し強引に押し込んだ。

「にゃにひゅるゅんだひょ!(何するんだよ!)」
「お菓子あげたんだからもう悪戯しないでよねv」
「いひゃだね!ぼきゅのばひゃいはTrick or Trickだ!!!」
「なんて言ってるのか分かんないって!」
「むき――――!!!」

先程の子供達と変わらない様子で駆けて行くユーリとフェイトを見やりながら、
クロフォードはようやく墓所を振り返った。

ユラユラ揺らめく無数の蝋燭に照らされた墓所の中を、
沢山のゴースト達が右往左往している。
偽者に紛れて、本物が居る事に、一体何人気付いているだろう?
いや、気付かなくて良いのだ。
気付いてしまったその時が魔法が解ける瞬間なのだから。

クロフォードは、ゴースト達の中に月光を紡いだ様な豊かに波打つ銀の髪を見た気がしたが、
そっと目を閉じ月を仰ぎ見ると、
ずっと先で手を振っているユーリとフェイトの方へと歩き出した。 






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